アレクサンダーテクニークを解剖学的に考える

このワークを経験すると、多くの人が体が軽くなったという表現をします。実際、からだ全体が長くなり広がるということがおきているのです。

頭と首(胴体)の関係が変化することでからだにどんなことが起こるのか考えてみました。

 

頭を押し下げることを抑止できれば脊椎にかかるプレッシャーを減らし、その長さを回復させることができます。さらに水平方向に頭蓋底が緩むでしょう。

 

人間の脊椎は頚椎、胸椎、腰椎、仙骨尾骨からなる彎曲構造です。脊椎は新生児ではほぼまっすぐ、頚椎の前湾は生後2,3か月で出現し,それ以外の湾曲は2,3歳で出現し、全体の構造が完成するのは10歳くらいといわれています。

椎骨は椎間板と関節突起によりそれぞれが関節を作り、三点支持の構造です。

これは動く、支えるという矛盾した機能を荷うべくデザインされています。

頭蓋骨は環椎と後頭骨の関節(AO関節)を介して脊椎の上部にあります。

構造的に後頭骨と環椎の関係は脊椎の状態を反映します。

頭蓋は環椎の上でとても繊細に動くことができます。

 

頭と首の接する場所は頭蓋底であり、脳(神経系)と脳以外のからだの境界です。

ここは蝶形骨と後頭骨の関節、それ以外の頭蓋骨が接する場所でもあります。

脊髄神経と脳神経、動静脈の通路であり、血液や情報が絶え間なく通過しているいわば身体の要所です。また、眼、耳、鼻、舌という主要な感覚器はこの周辺に配置されています。

 

首(胴体)の緊張が減ると、脊椎、頭蓋骨のバランスが改善し、頭蓋底は弛むことができるのです。

頭蓋底の開放はからだが本来もっている,機能が働くために必要なことです。頭蓋底がゆるむことで脳とそれ以外の部分との情報や体液の流れがより潤滑になることが考えられます。それによってからだ全体(脳も)に起こる変化は外部からは見えないことも含めるとはかりしれません。

逆の見方をすればこの部分を固めることは、つねに全身を緊張させ自分を小さくする方向に動いてしまうことになるのです。

 

アレクサンダー・テクニークがさまざまボディーワークと一線を画するのはそのバランスを回復するためにどのように‘考える’、または‘思う’のかという手順にあります。

思う、あるいは考えることが身体にどのように反映されるのか、影響するのかという

‘心身の相関のプロセス’をFM アレクサンダーは発見したともいえるでしょう。

 

人類が人類として、地球上に出現してから数百万年もが経過したと考えられています。

私たちは地球という重力場で直立して動ける身体の構造をもって生まれてきました。

手を自由に使えるのはこの構造に依っています。

しかし文明社会でみられる年齢とともに増える脊椎や、股関節、膝などの障害は二本足で自分を支える生活に十分適応できていないことから起こるように思えます。

重力に拮抗して直立するためにはどのようにすればよいか、アレクサンダー・テクニークはこの問題に答える有効な方法だと考えています。

それは、からだに余分な緊張がなく頭が脊椎の上で動くことができれば地面(地球)からの支えを使いわたしたちは本当に自由に動くことができるようになるということです。

 

また個人の一生という観点から進化ということを考えると、成長期を過ぎると、私たちの肉体はただ衰えるだけの存在なのでしょうか。

年齢をかさねることが成長につながる生き方はどうあったらよいのか、テーマは壮大すぎるのですが、‘身体といかに関わるか’を抜きにしてこの問題は語れないように考えます。

わたしはアレクサンダー・テクニークはこの問いへの答えを持っているように思います。